神奈川県畜産技術センター 技術情報 2007年6月
「MUN(乳中尿素窒素)値を活用しましょう」
本県では2006年4月から県酪農業協同組合連合会の生乳検査室で乳中尿素窒素(以下MUN)の分析が始まりました。月3回の乳質検査の際にバルク乳MUNが、牛群検定の際に個体乳MUNが分析され、酪農家の皆さんに分析値が提供されるようになりました。
MUN値は乳牛が摂取したエネルギーと蛋白質のバランスを示すもので、飼料が効率的に乳生産に利用されているか、乳生産に見合った栄養を摂取しているかを判断する指標となります。近年、生産効率の向上や疾病予防という観点からその活用が求められているところです。
分析が始まり1年が経過しましたので、県内酪農家のMUN値の状況とMUN値活用のポイントを紹介します。
(1)MUNって何?
MUNは飼料として摂取した蛋白質の最終分解産物で、ルーメン内で利用されなかった蛋白質を数値で表したものです。
飼料中の分解性蛋白質は、ルーメン内の微生物によりアンモニアに分解され、微生物蛋白質に再合成されます。微生物蛋白質の合成には、糖やデンプンなどのエネルギーが必要です。分解性蛋白質が過剰に供給されたり、エネルギーが不足した場合には、余ったアンモニアはルーメン壁から吸収されて尿素に変換され、尿中や乳汁中に移行し、体外に排出されます。乳汁中に排出された尿素が乳中尿素であり、この中に含まれる窒素分がMUNです。
飼料中の蛋白質が過剰であったり、微生物蛋白質合成のためのエネルギーが不足しているとMUN値が高くなります。飼料中の蛋白質が不足していたり、分解性蛋白質より非分解性蛋白質(バイパス蛋白質)の比率が高い場合はMUN値が低くなります。
(2)県内酪農家バルク乳MUN値の状況
2006年4月から2007年3月までに分析された県内酪農家のバルク乳13,298検体のMUN値の分布を図1に示しました。
年間の平均及び標準偏差は11.4mg/dl±2.5で、北海道の舎飼い期におけるバルク乳の適正範囲とされている10〜14mg/dlに64%が分布していました。
またMUN値と摂取エネルギーの過不足の指標となる乳蛋白質率の平均値の推移を図2に示しました。乳蛋白質率は気温の影響を受け、飼料摂取量が低下する気温の高い時期には低く、気温の低い時期には高く推移していますが、MUN値は乳蛋白質率ほど顕著な変化はありませんでした。

図1 県内酪農家バルク乳MUN値の分布(2006年4月〜2007年3月)

図2 県内酪農家バルク乳MUN・乳たん白質平均値の推移
(3)酪農家での事例
MUN値は牛群毎に異なり、それぞれの牛群構成や飼養管理状況を反映しています。
ここでA・B・C牧場の3つの牛群の事例を紹介します。
それぞれバルク乳MUN値、乳蛋白質率の推移を示しました。
●A牧場<飼料変更時にはMUN値を確認>

A牧場の牛群のMUN値は4月〜11月には適正範囲の上限とされている14mg/dlを超えることもありましたが、12月以降は下限の10mg/dlを下回るようになりました。また、乳蛋白質率をみてみると、気温が高くなるにつれて低くなる傾向があり、12月以降上昇しています。
A牧場では、12月から飼料給与内容を変更しました。また、9月に分娩が多かったことも乳成分値に影響していると思われます。現在A牧場では、牛の状態と併せ乳成分値をみながら、給与内容を調整しているところです。
このように、飼料の変更によりMUN値は変化します。飼料給与方法、飼料の種類、給与回数を変更した時や粗飼料を切り替えた時には、適正な給与となっているかMUN値を確認しましょう
。
●B牧場<牛群の適正範囲を把握>

B牧場の牛群のMUN値は適正範囲とされている10〜14mg/dlよりも低い値で推移しており、年間を通じて値の変動が少なく、安定しています。
B牧場は平均分娩間隔411日・平均空胎日数137日・平均授精回数1.6回(牛群検定成績)と比較的良好な繁殖成績で、疾病も少ない牛群です。
MUN値の適正範囲は牛群構成や飼養管理状況により異なります。牛群の状態がよい時の数値をその牛群の適正範囲と考えて、我が家の牛群の適正範囲を把握しましょう。また、ルーメン内の状態が安定していることが望ましいので、年間を通じてMUN値の変動が少ないことが重要です。
●C牧場<個体乳の乳成分値も確認>

C牧場の牛群のMUN値はほぼ適正範囲で推移しています。
1頭当たりの乳量は約9,000kgと能力の高い牛群ですが、繁殖成績は平均分娩間隔437日・平均空胎日数168日・平均授精回数3.1回(牛群検定成績)と改善が課題となっています。
そこで、牛群検定時の個体乳の乳成分値をみると、分娩後の日数が経過しても、乳蛋白質率が3.0%を下回る個体が多くなっています。乳蛋白質率は卵巣機能の回復状態の指標となり、分娩後70〜80日目で3.0%を超えることが順調な回復の指標となっています。このことから、この牛群では高泌乳時の摂取エネルギーが不足していることが伺われます。
このように個体乳の乳成分値を泌乳ステージ、産次毎の分布と併せて確認することも必要です。
(4)MUN値活用にあたって
以下にMUN値活用のポイントを示しました。 MUN値を含め、乳成分値は乳牛の飼養管理が適切かを判断する有効な情報の1つです。しかし、まず牛がしっかりエサを食べているか、毛づや、乳房の張り、ボディコンデイション、ふんの状態を観察した上で活用しましょう。
また、バルク乳は様々な泌乳ステージ、産次の牛の合乳なので、バルク乳の乳成分値が適正範囲にあっても、個体乳の乳成分値の分布を確認する必要があります。個体乳の乳成分値を把握することで牛群の詳しい情報を得ることができますので、牛群検定に参加し、飼養管理の改善に役立てましょう。
牛群の乳成分値を年間を通してみてみると、それぞれの牛群の問題解決のヒントがあるはずです。
バルク乳MUN 1 MUN値と同時に乳たん白質率を見る エネルギーの過不足を判断できる乳たん白質率と併せて見ることで、 栄養バランスを判断する 2 年間を通じて値を見る 牛群の状態を1回の値だけで判断するのではなく、長期間の推移を見る 3 数値が適正範囲内かを確認する 牛群によって適正範囲は異なるので、牛群の状態がよい時の数値が その牛群の適正範囲と考える 個体乳MUN 1 泌乳ステージや産次などの分布と併せて確認する 2 適正値の平均値から逸脱している個体に注意する |