神奈川県畜産技術センター 研究情報 2006年7月

植物パネル(コケパネル)を利用した暑熱対策について 

1.はじめに
 ここ数年、地球温暖化により暑さの厳しい夏が続いています。畜産経営において、夏季の暑さは発育成績や繁殖成績を低下させ、生産性を悪化させる大きな要因となりますので、いかに畜舎内の温度を下げることができるかが重要になってきます。特に豚は体全体が厚い皮下脂肪で覆われており、また、汗腺がほとんど退化していて、体内に蓄積された熱を効率よく放散することができないため、暑さに弱く、夏季の暑熱対策が重要です。

 現在、暑熱対策として豚舎内へのミスト散布や扇風機の設置などがありますが、ランニングコストがかかるうえに、エネルギー利用の観点から環境に負荷がかかるなどマイナス面もあります。
 そこで今回、電気エネルギーの利用や施肥、灌水などのメンテナンスが必要ない「コケ」を定着させた植物パネル(コケパネル)を豚舎屋根に設置し、「環境に配慮した新しい暑熱対策」として豚舎内環境の変化及び肉豚の発育性への影響等、暑熱に対する効果について、調査・検討しましたので、その概要をお知らせします。
 なお、この調査・研究は平成17年度に当センターと東京農工大、モスブロー環境技術工業会、全農畜産サービス株式会社、(社)神奈川県養豚協会との共同研究で実施しました。

緑色のコケが生えている
写真1 コケパネル
スレート屋根の上に設置
写真2 コケパネルを設置した試験豚舎


2.コケパネルとは
  コケパネルとは、軽量なロックウールにスナゴケを定着させ、屋上などに固定しやすいパネル状にしたものです(写真1)。このスナゴケは、河原や山地の日当たりの良い砂地や岩の上などに生育するコケ植物で「乾燥に強いため灌水が必要ない」、「生育するのに肥料が必要ない」、「剪定の必要がない」などの特長が屋上緑化植物に適しているとして注目されています。
 一方、コケを定着させている基質部分のロックウールは、全体の
90%以上が空隙でできていて、豊富な水と空気を同時に蓄えることが可能なため、コケの生育に適しています。また、軽量であるため、建築物への荷重も問題がなく、傾斜屋根にも設置が可能です。

.調査の概要
(1)使用した試験豚舎
 今回の試験は、スレート屋根で天井が低く、夏の暑さの影響を比較的受けやすい構造をしている(社)神奈川県養豚協会の検定豚舎を使用しました。豚舎の屋根には写真2のように片側にコケパネルを設置し、他方は既存の状態としました。試験豚舎内は図1のとおりに区分し、各豚房には品種、性別及び体重がほぼ同じになるように4頭ずつ収容し、豚舎の窓は開放状態で825日〜107日の43日間調査しました。

豚舎の概要図
               図1 試験豚舎内の概要


(2)調査内容
@豚舎屋根の温度及び豚舎内の温湿度 
  コケパネルの表面、スレート屋根表面及びそれぞれの天井裏の温度を自動温度測定機器を使用して30分間隔で測定しました。外気温が34.2℃まで上昇した826日の屋根表面の温度は、コケパネル屋根がスレート屋根に比べ最高12.2℃も低く、天井裏でもコケパネル区がスレート区より9.7℃も低くなりました(図2)。また、試験豚舎内の温度は、供試豚を豚舎内に収容した状態で、豚房中央の高さ110cmの位置で自動温度測定機器により30分間隔で測定したところ、外気温が34.6℃まで上昇した98日は、コケパネル区の室温はスレート区に比べ1.2℃程度低くなりました。(図3)
屋根表面や天井裏の温度グラフ
                 図2 屋根表面と天井裏温度の比較 

豚房内温度のグラフ
                    図3 豚房内温度の比較

A発育性の調査
 供試豚の発育状況を調査するため、概ね一週間毎に体重測定を実施しました。その結果、試験期間中の1日あたりの増体重(DG)は、97日から13日の間及び928日から103日の間でコケパネル区の体重増加が停滞しましたが、それ以外の期間ではコケパネル区がスレート区に比べ良好な結果となりました(表1)。試験終了時にはスレート区の体重が試験区に比べやや大きくなりましたが、全期間を通じて両区に統計的な差は認められませんでした。

表1 一日あたり増体重の比較                             単位:g
8/25
〜8/30
8/31
〜9/6
9/7
〜9/13
9/14
〜9/21
9/22
〜9/27
9/28
〜10/2
試験期間内平均
コケパネル区平均 902.9 725.0 226.8 996.9 1316.7 197.5 761.2
スレート区平均 818.4 639.3 973.2 729.7 718.8 1155.0 791.9

B供試豚の体表温度の違い
  最高気温の高かった(最高気温の平均:32.1℃)9月1日・2日・8日の3日間について、熱画像測定装置を用い、コケパネル区8頭とスレート区8頭(1頭あたり10カ所)の体表温度を測定しました。コケパネル区における供試豚の体表温度の方がスレート区に比べ有意に低い値を示しました(表2)。

表2 体表温度の比較                                  
調査頭数 計測箇所数 平均体表温度 豚房内平均温度 測定月日
(頭) (℃) (℃)
コケパネル区 8 80 35.78a 31.0 9/1・2・8
スレート区 8 80 36.38b 31.9 9/1・2・8
                         ※異符号間に有意差あり

C血液血清学的検査
 脱水状態などの生体への影響について調査するため、試験開始20日目(914日)にコケパネル区及びスレート区の各8頭を採血し、動物専用自動血球測定装置を用い、ヘマトクリット値、赤血球数及び白血球数を測定し、血液生化学自動分析装置を用いて血清中のGGTBUNKNa,Cl濃度を測定しました。血液血清学的検査結果ではすべての項目で両区に統計的有意差は認められませんでした。

4.おわりに
 今回の試験結果から、コケパネルを設置することにより、屋根表面及び天井裏の温度は、それぞれ最大12.2℃、9.7℃の低下が認められました。また、今回の試験では豚舎の窓を開放して実施したにもかかわらず、コケパネルを設置した豚房内の温度は1℃程度低下し、コケパネル区では供試豚の体表温度がスレート区に比べ有意に低いことも確認されました。これは、コケパネルの設置により舎外から豚体表まで届く熱量が減少することによるもので、コケパネルは、夏季の暑熱対策として利用できる可能性が示唆されました。
 なお、試験期間中において、明け方や温度の低い時に、コケパネル区の豚舎内温度がスレート区に比べ逆に高くなる現象が認められました。この現象はコケパネルの持つ保温効果によるもので、冬期間での畜舎内を保温する効果も期待でき、冬場の発育性の改善につながると思われます。

 本年度(H18)はこのコケパネルに、殺菌効果と脱臭効果が高く、残留性がないという特長を持った「オゾン水」とを組み合わせ、「環境に優しい」、「衛生的」、「臭気が少ない」などの総合的な技術の確立と、「快適な豚舎環境づくり」の構築に取り組んでいます。
畜産工学部 小嶋信雄)

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