神奈川県畜産技術センター 研究情報 2005年11月
「初産分娩月齢を早期化するための育成牛の管理」
1. はじめに
子牛の育成はスキーのジャンプ競技に例えられます。「十分な助走スピード=哺乳期」、「踏み切りで飛び出すタイミング=離乳時期」、「飛び出す角度=育成前期」、「うまく風をとらえて=育成後期」、「きれいに着地する=分娩」、連続しておきるこれらのことが全てうまくいったときに高得点(高収入:高泌乳)に結びつくということです。
牛群検定成績の集計では、乳牛の初産分娩月齢は26ヶ月であり、牛乳生産を始めるまでに2年以上の育成期間を要しています。このことは、酪農経営の生産コストや効率化を考える上で、飼料費や労働費等の直接的経費と牛舎等の施設の利用効率の点から改善が望まれています。
離乳後から人工授精までの育成前期は、体高が急速に伸びる時期であり、骨や筋肉が増加するために蛋白質の要求量が高まる時期です。この時期に発育を速めようとして高エネルギーの穀物を給与しすぎると過肥により乳腺の発達に悪影響を及ぼすと言われています。しかし、飼料中のエネルギーと蛋白質のバランスを考慮しながら発育を促進することで、過肥にせずに早期に授精可能な体格作りが可能なことが報告されています。
当所では、21〜22か月齢で安全・確実に初産分娩させる育成管理の確立を目的として、離乳後から人工授精までの育成前期の発育速度と飼料中粗蛋白質(CP)含量が発育、繁殖及び泌乳成績に及ぼす影響について試験を行いましたのでその概要を紹介します。なお、この試験は、茨城県、千葉県、富山県、石川県、愛知県、長野県の各試験機関と共同で平成13年から平成16年に行われたものです。
| 2.試験方法 乳用種雌子牛40頭に対して、CP含量14%の飼料を日増体量(DG)750gに設定して給与した適増体適蛋白質(LL)区、CP含量14%の飼料をDG1,000gに設定して給与した高増体適蛋白質区(HL)区、CP含量16%の飼料をDG1,000gに設定して給与した高増体高蛋白質区(HH)区の飼料で90日齢から体重が350kgを超えるまで飼養しました(表1)。 |
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3.発育成績
各区のDGはLL区950g、HL区1,120g及びHH区1,090gであり、DGを高めたHL区とHH区ではLL区に比べて体重が350kgに達した日数が約40日間早まりました。この時の体高や各部位の測尺値には試験区による差はなく、DGが1,000gを超えても各部の発育には影響はありませんでした。また、飼料中CP含量の異なるHL区とHH区の発育には有意な差は認められず、HH区の血中尿素窒素濃度が高値(16mg/dl以上)で推移したのに対してLL区及びHL区では正常範囲内で推移したことから、飼料中CP含量は14%程度で充分と考えられます。
| 4.繁殖成績 初回発情月齢は9.8〜10.6ヶ月、体重323〜333kgで観察され、発情後7日目の血中黄体ホルモン濃度は5.4〜8.9ng/mlであり、受胎のために充分な黄体機能が備わっていることが確認されました。 受胎月齢は11.8〜13.7ヶ月で、受胎時の体重は384〜413kgでした。受胎に要した種付け回数は各区とも2回程度で、日増体量や飼料中CP含量による繁殖成績の差は認められませんでした。(表2) |
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4.繁殖成績
初回発情月齢は9.8〜10.6ヶ月、体重323〜333kgで観察され、発情後7日目の血中黄体ホルモン濃度は5.4〜8.9ng/mlであり、受胎のために充分な黄体機能が備わっていることが確認されました。 受胎月齢は11.8〜13.7ヶ月で、受胎時の体重は384〜413kgでした。受胎に要した種付け回数は各区とも2回程度で、日増体量や飼料中CP含量による繁殖成績の差は認められませんでした。(表2)
| 5.泌乳成績 これらの牛の初産分娩月齢は21.1〜23.0か月であり、分娩後体重は544〜565kgでした。分娩難易については高増体による影響は認められませんでした。しかし、初産時の305日乳量はHL区とHH区がLL区に比べて有意に低く、育成前期におけるDG1,100g程度の高増体は初産時の泌乳量を低下させる可能性があることが考えられました。乳成分については試験区間の有意差は認められませんでした。 今回の試験で最も乳量が多かったのはDG950gで増体し23ヶ月齢で初産分娩したLL区で、305日乳量は8,631kgでした。この乳量は牛群検定成績の2歳型305日乳量(8,197kg)よりも高く、DG950g程度の増体であれば泌乳成績に悪影響を及ぼさないものと考えられました。(表3) |
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6.まとめ
今回の試験結果から、育成前期の飼料中のエネルギーと蛋白質のバランスを考慮しながら発育を促進することで、繁殖成績や分娩に影響を与えることなく初産分娩月齢の早期化ができました。しかし、初産時の泌乳成績は試験区間に差が認められ、日増体量1,100g程度の発育促進は初産時の泌乳量を低下させる可能性のあることが判りました。
最近、哺乳期の管理が育成期の発育や分娩後の泌乳に対して影響を及ぼすことが指摘されており、哺乳量、哺乳期間、乳成分等の調整により栄養摂取量を高め、哺乳期から発育を早めることが試みられています。また、飼料の消化性の改善や下痢防止を目的とした乳酸菌やオリゴ糖等の給与についても興味が持たれており、これらの課題についても順次取り組んで行きたいと考えています。
初産分娩月齢が27か月から21か月に早期化された場合、育成牛1頭当たり12万円の経費削減につながると試算されています。初産分娩の遅い農家の中には、育成牛の飼養管理に無関心で十分に栄養が与えられていなかった農家もあると思います。今回の試験では、市販の育成配合飼料(TDN68%、DCP14%)に大豆粕、圧ぺんコーンを追加することで蛋白質の摂取量を高めて発育を促進させましたが、その他にもアルファルファ乾草やペレット、人工乳等の比較的入手しやすい飼料を用いた取り組みもあります。将来、搾乳牛として活躍する後継牛の育成管理についてこの機会に見直してみてはいかがでしょうか。
(畜産工学部 秋山 清)
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