神奈川県水産技術センター 内水面試験場

ゼニタナゴの放流適地調査および放流試験

 (1) 目 的 
  神奈川県最後のゼニタナゴ生息地は、鶴見川水系に位置する横浜市内のため池(以下、α池)であった。しかし、α池では、平成9年10月以来、ゼニタナゴは採集されておらず、自然水域からは既に絶滅した可能性が高い。幸い、当場で、過去に採集したゼニタナゴを親魚として養成し、増殖試験を行った結果、少数ではあるが継代飼育に成功した。しかし、飼育下で神奈川県産ゼニタナゴの遺伝子を保存することは重要だが、その増殖事業の最終目的は本種の生息地を自然水域に復元することにある。
 そこで平成10年度より、生息地復元のための放流試験を実施すべく、試験候補地を選定するため、鶴見川水系の河川やため池を中心として、水質等の環境調査と魚類等の生物調査を行っている。今年度も引き続き、放流候補地の調査を行った。また、昨年度より開始した奈良川源流域での復元試験を継続して実施した。
(2) 方 法
 放流適地調査 鶴見川水系と多摩川水系の河川とため池等において、環境調査と生物調査を行った。環境調査は、水温、水素イオン濃度(以下、pH)、電気伝導度、濁度および溶存酸素(以下、DO)を、水質チェッカー(堀場製作所 U-10)を使用して測定した。
 生物調査は、手網(直径50cm)と又手網(幅100cm×高さ100cm)、電気ショッカー等を使用して行った。採集魚はすべて10%ホルマリン溶液で固定し、魚体の収縮が終了した約1ヶ月後、種の査定を行った。採集した魚類の分類及び和名は中坊、甲殻類は武田によった。

奈良川源流域ビオトープにおける放流試験 昨年度に継続して奈良川源流域ビオトープにおいて環境調査と試験放流を行った。本ビオトープは、縦5.0m×横1.5m×深さ0.5m、底面に荒木田を敷いたコンクリート池である。水は湧水を導入している(約1〜2L/分)。
 このビオトープに昨年度、神奈川産のゼニタナゴを12尾放流したが、春に雄が2尾へい死したので、11月に雄個体、2尾を追加放流した。ゼニタナゴとドブガイの状況を目視により随時観察した。
ドブガイは、昨年度、放流した個体が多くへい死したので、新たに20個体を放流した。産卵期、終了後の12月、新たに造成した二枚貝飼育用の池へ、10個体を移収した。今年から、バケツで植物プランクトンを培養してドブガイへ給餌した。
 環境調査は、放流適地調査と同様の方法で測定した。測定場所は、ビオトープ上流にあるコンクリートの桝内の水質を「源水」、ビオトープの中央部の表層水温を「中央上」、下層を「中央下」として、随時、測定した。

(3) 結 果
放流適地調査 環境調査結果と生物調査結果について、表1に示した。
 白鳥湖では、モツゴ、タイリクバラタナゴ、テナガエビ、スジエビが採集された他、ドブガイの殻を多数確認した。本池では、過去にドブガイの生息が確認されているが、昨年度の調査でも、今年もドブガイの生残個体は採集できなかった。聞き取りによれば、最近、湧水の減少等で環境が悪化し、二枚貝が激減したらしい。また、タイリクバラタナゴが少数採集されたので、本池はゼニタナゴの放流適地として、現時点では不適である。しかしながら、本池に生存したドブガイは、神奈川県最後のゼニタナゴ生息地であるα池から移植されたとも言われている。α池では、ドブガイは絶滅状態であるので、貴重な神奈川産ドブガイの遺伝子を保存するためにも、本池のドブガイを採集して繁殖させ、ゼニタナゴの生息地復元に活用すれば理想的である。また、タイリクバラタナゴの採集数が少数であるので、今後も調査を継続しゼニタナゴの復元を検討する予定である。
その他の鶴見川水系、谷戸環境が残る恩田川源流域と犬蔵谷戸の調査結果では、ホトケジョウが生息する湧水のある水域であった。しかし、ゼニタナゴにとっては、現状の環境では川幅が狭く、水深のある淵も少ないので、ある程度の改修が必要である。
今回から多摩川水系にも調査範囲を拡大し、生田緑地に隣接するゴルフ場内の池と水路を調査した。ゴルフ場の内部なので水質が心配であるが、ホトケジョウの生息も確認さているので、今後のゴルフ場の管理方法等を工夫すれば、候補地となり得る可能性もある。
 奈良川源流域ビオトープにおける放流試験 環境調査結果について表10に示した。水温は、最低が13.2℃、最高は25.8℃であった。ゼニタナゴの産卵期の秋季は、15〜20℃で安定していた。水質は、pHが6.52〜6.97、溶存酸素(DO)が2.06〜7.78mg/Lであった。
 2000年3月〜4月にかけてドブガイが大量にへい死した。この時期は降雨量が少なく、ビオトープへの注水量が減少したことと、最初にへい死したドブガイの発見が遅れたことが重なり、ビオトープの水質と底質が悪化したことが原因である。そのため、今年は7月に入ってもゼニタナゴの浮上稚魚は確認できなかった。へい死したドブガイからゼニタナゴの仔魚が多数発見されたが、既にへい死した個体がほとんどであった。一部、生残した仔魚を試験場へ持ち帰り、恒温器で収容して管理したが、すべて短日でへい死した。
 今年のビオトープ内のゼニタナゴ親魚は、排水口付近の最大水深部で常時観察された。4月の水質が悪化した時に2尾へい死したが、今年の繁殖期も9月から11月にかけて、活発な繁殖行動が展開された。昨年と同様、日中はあまり行動せず、夕方から夜間にかけて活発に泳ぎ回った。秋の産卵期に追加放流を行った後は、雄が貝の周辺になわばりを作り、盛んに貝の周囲を掃除した。繁殖活動も夕方から夜間にかけて活発であった。雌も次第に成熟し、産卵管が伸張する個体が9月頃から目立った。水槽内にイシガイとドブガイを入れ、ゼニタナゴがどちらを選択するか試験していました。

          表1  放流適地調査の環境と採集生物 
年月日   河川名 地点 気温 (℃) 水温 (℃) PH   伝導度 (cm/s) 濁 度    DO (mg/L 塩   生息生物
2000 4.19    白鳥湖 船着場   15.8   16.0   8.72     97  255    10.87   0.00 モツゴ・タイリクバラタナゴ・テナガエビ・スジエビ     
白鳥小屋   17.1 8.92   99  102  10.33 0.00
湧水地点   18.0 9.02  101   88  10.46 0.00
湧  水     16.0   7.63     98     0     4.90   0.00  
4.28 恩田川 恩田源流   15.0   13.4   6.53     98    339     4.31   0.04   ホトケドジョウ・カワニナ  
5.16    生田緑地 池下水路     17.5   19.1   6.81    120     0     4.40   0.00   ホトケドジョウ・カワニナ   
湧  水     14.8   6.91    106     0     5.97   0.00  
6.22   犬蔵谷戸 入り口     25.6   19.4   7.25    250     0    5.75   0.00   ドジョウ・ホトケドジョウ・カワニナ・サワガニ   
下 流     19.6   7.48     207     0     7.21    0.00  
 

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