秋に下流の瀬で産卵されたアユの卵は、約2週間後にふ化します。ふ化すると直ぐに、アユの赤ちゃんは、川の流れに乗って海へ下ります(この時期のアユは、降下仔アユと呼ばれています。)。一般に、川の中には餌となるプランクトンがほとんどいないため、アユは卵黄中の栄養分を消費しながら海まで降下すると言われています。
しかしながら、相模川では、神川橋下流において実施している仔アユ降下状況調査時(海に下る仔アユの量を推計する調査)に、降下仔アユに混じり、成長した仔アユが時折採捕されます。
今回は、これらの仔アユの生態を把握するため、これまでの調査で得られたサンプルについて分析を行いましたので紹介します。
1998〜2003年及び2005年の10〜1月に、神川橋下流で採捕した仔アユのうち、44尾の大型仔アユを使用しました。全てについて体長測定を、41尾につて耳石日周輪の計測を、24尾について消化管内容物の分析をそれぞれ行いました。また、神川橋より下流の環境を把握するため、東京大学海洋研究所との共同調査により、2005年10月24日と12月21日に、相模川河口から寒川取水堰までの約7q区間において、約500m間隔で、鉛直的に塩分等を測定しました。
1998〜2003年及び2005年の降下状況調査では、1998年と2002年は大型仔アユが採捕できませんでしたが、1999年は13尾、2000年は12尾、2003年は4尾、2005年は15尾がそれぞれ採捕できました。また、10月下旬から11月中旬に多く採捕されました。
分析の結果、大型仔アユの体長は、13.6〜41.1oの範囲で、16o以上22o未満が多く(図1)、ふ化後15〜91日で、10月上旬に生まれたものが多いことが分かりました(図2)。
一般に、体長20o程度のアユは、海で主に動物プランクトンを食べているのですが、神川橋下流の大型仔アユの消化管からは、珪藻類が多く確認されました。
また、各年における大型仔アユの採捕尾数は、推定ふ化日が最も多かった10月上旬の寒川取水堰下流の河川流量が少ない年に多く採捕される傾向がみられました。
一方、水質調査では、相模川河口では、海水が河川へ進入していることが認められました。そして、河口から約2.5q上流までは、底層に汽水域が確認されましたが、3q上流から寒川取水堰までの4q区間では、殆ど塩分を検出することはできませんでした。
相模川河口域では、成長した仔アユが確認されていることから、今回の大型仔アユは、満潮時に河口域から神川橋下流まで遊泳し、採捕された可能性は否定できません。
しかし、約4qの淡水域を遊泳しなければ神川橋下流に到達できないことや、何も食べていないものが少なく、殆どの仔アユの消化管内に淡水産の藻類が確認されたこと。また、ふ化時期の河川流量が少ない年に多く採捕される傾向があることは、川の流れに乗って降下する仔アユにとって、河川流量の減少が、河川内にとどまる大きな要因になることから、大型仔アユの多くは、神川橋より上流の淡水域で成長後に降下した可能性が高いと考えられました。
静岡県の天竜川や愛知県の矢作川では、相模川と同様に大型仔アユが確認されていて、いずれも取水堰の下流で採捕されています。神川橋の上流には、寒川取水堰があることから、当堰の湛水域で仔アユが成長している可能性が高いと考えられます。
今回ご紹介した仔アユの生態は、相模川のアユにとって、ごく希な例かも知れません。しかし、海産アユの赤ちゃんも淡水で成長できるという潜在能力は、川と海を行き来していたアユが陸封され、完全に淡水に適応した琵琶湖産のアユが誕生したという進化の過程を垣間見ているように感じます。
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| 図1 大型仔アユの体長組成 | 図2 大型仔アユの日齢組成 |
(神奈川県水産技術センター内水面試験場 蓑宮 敦)