神奈川県水産技術センター 内水面試験場

アユ種苗総合対策事業  外部形質による産地別アユの判別手法の開発

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再生産系統調査 
(1) 外部形質による産地別アユの判別手法の開発
 琵琶湖産アユと海産アユ、人工産アユでは、外部形態(耳石形態、側線上横列鱗数、鱗相等)やふ化日に差異が生じることが知られている。種苗の由来が個体識別できれば、河川における産卵群の産地別割合の算出等が可能となるので、神奈川県の各放流種苗の指標値を明らかにする。 種苗の外部形態等から個体ごとに系群識別を行う手法を開発し、神奈川県内に放流される各種苗の指標値を明らかにした。
 分析に使用した種苗は、人工産種苗として神奈川県産(海産と琵琶湖産の混合継代23代、以下人工産と略す)、群馬県水産試験場産(湖産と海産の混合継代30代)、新潟県水産試験場産(海産系継代10代)、T県産(海産系継代10代)。海産として、平成12年に相模湾で採捕し飼育したもの(以下海産養成という)と新潟県水試の飼育魚(河川への遡上魚を飼育したもの)、早川への遡上魚を使用した。琵琶湖産種苗としては、滋賀県水産試験場から提供を受けた姉川に遡上したもの及び琵琶湖にて平成12年2月、4月に採捕し飼育したもの及び徳島県の養殖業者が養殖したもの(平成11年11月採捕)を用いた。
 また、当場が各種魚類調査で採捕した、相模川、酒匂川、早川のアユについても調べた。
 調査項目は、外部形態(下顎不整合と咽峡突出の有無、側線上方の鱗の配列状況、)、側線上方横列鱗数、下顎にある側線孔の数である。
 
(2) 結 果
ア 側線上方横列鱗数による区分
 側線上方横列鱗数の計数する基点は背鰭第1棘の付根が基点であるが、実際計数してみると背鰭の第1棘の付根付近は配列の乱れることが多く、計数が困難な個体が多かった。
 そこで、より計数しやすい背鰭第5軟条付根を基点として計数し、背鰭第1棘を基点とした場合との比較を行った。計数結果は図1のとおりで、基点が異なる場合の枚数差は1〜3枚であった。
 人工産と海産養成を比較すると、背鰭第1棘が基点の場合人工産は14.6±1.045枚、海産は20.8±0.774枚、背鰭第5軟条を基点の場合人工産は12.7±0.864枚、海産養成は17.8±0.488枚と人工産及び海産では明瞭に区分でき、どちらを基点にしても区分が可能であった。以降計数の容易な背鰭第5軟条を基点として比較を行った。
 琵琶湖産種苗の側線上方横列鱗数については、姉川は海産養成よりも多い20.1±0.343枚、その他の琵琶湖産育成魚は採捕時期により鱗の数が異なる15.5〜17.7枚であった。この枚数は海産養成の値と重複しており、海産養成魚との区分はできなかった(表1)。

イ 下顎側線孔数
 下顎側線孔の数は、左右の下顎にある側線孔の数を数え、左右の平均値を求めた。
 産地別の下顎側線孔数の平均値を表2に示した。人工産は3.5個が最も多く26.5%、4.0個が21.7%であった。それ以外の産地は4.0個が最も多く、海産が88.3%、琵琶湖産のうち姉川は100%、4月採捕が61.5%、2月採捕が98.0%、11月採捕が54.5%と同じ産地であっても採捕時期により下顎側線孔の数が異なっていた。
 側線上方横列鱗数と下顎側線孔数の単独では、産地の判別ができなかったため、両者の平均値(下顎側線孔数は左右の数の平均)を図2に示した。なお図には、他県の海産及び人工産種苗と早川への天然遡上魚、琵琶湖産放流魚の値も記載した。
人工産種苗は、生産県に関係なく側線上方横列鱗数が15枚以下で、下顎側線孔数も少なかった。海産種苗は側線上方横列鱗数18枚付近に集中し、しかも下顎側線孔数が4個に近い。遡上魚は全て4個であった。琵琶湖産種苗は、側線上方横列鱗数・下顎側線孔数とも採捕時期や場所によりばらついていた。

ウ 奇形の出現率
 側線上方横列鱗数が18枚前後の場合、海産と琵琶湖産に区分するのは困難であったので、さらに下顎奇形の出現率と、鱗の配列の乱れにより分離を試みた。
 下顎奇形は、下顎不整合(上下の顎のかみ合わせ)の程度と咽峡突出の有無により、”なし”、”少しある”、”ある”の3段階に区分した。
 鱗の配列の乱れは、背鰭の基点から計数していく際、一列に最後まで数えられるものを、乱れが”なし”、側線近くで鱗が入り組んでいるものを乱れが”少しあり”、鱗の並びが交互に入り組んでいるものを乱れが”あり”の3段階で区分した。
 天然に近い姉川と早川海産は、下顎の奇形と鱗の乱れは少なかったが、人工産と琵琶湖産の飼育期間の長い群は鱗の乱れる割合が多かった。
 下顎の奇形や鱗の乱れだけで、種苗を仕分けることはできないが、上記の2つの手法により区分できない側線上方横列鱗数が18枚前後の魚について区分する判断基準の一つにはなと考えられた。

エ 産地別区分表
 側線上方横列鱗数、下顎側線孔数、下顎奇形、鱗の配列乱れの有無等外部形態による産地判別表を図3に示した。
 今回の区分は、放流された魚の由来が判っている場合に精度は高くなるが、民間の人工産種苗等種苗の種類が多い河川では判別が困難になる可能性がある。

オ 図3の産地別区分により、相模川、酒匂川、早川で獲れたアユの月別産地組成を調べ、表4に示した。
 人工産は5、7月に多いがその後は減少している。海産は相模川と酒匂川では、月を追う毎に割合を増しているが、早川では8月をピークに後半減少していた。また。琵琶湖産種苗は5〜8月に多いが、その後減少していた。また、いずれにも区分できなかったアユが最大で48.6%あった。 早川では琵琶湖産と人工産の種苗だけが放流されているので、その他に区分された種苗は全て琵琶湖産として放流されたものになる。これらの種苗は琵琶湖で採捕したアユを蓄養しているため、外部形態が琵琶湖産特有の形質(側線上横列鱗数等)と異なっていたと考えられた。
 早川では、12月13日でも全体の半数以上琵琶湖産種苗が生存し、産卵に参加しているのが確認された。このことは自然界でも海産種苗と琵琶湖産系種苗が交雑する可能性があることを示しており、放流種苗に海域での再生産を期待する河川では、琵琶湖産系種苗の放流に注意が必要である。

基点別産地別側線上方鱗数
基点別横列鱗数
産地別下顎側線孔数の平均値
産地別特性値
産地別下顎奇形と鱗の配列乱れの割合
産地別区分
河川における月別産地別採捕率
アユの産地別再捕割合

アユ種苗総合対策事業(平成12年度)

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