神奈川県水産技術センター 内水面試験場

相模川におけるアユの資源生態

 > アユ資源生態研究
  

 はじめに アユは、神奈川県の内水面漁業の最も重要な魚種の一つである。本県の主要河川では、琵琶湖産、海産及び人工産のアユ種苗が年間約500万尾放流され増殖対策がとられている。しかし、海産や湖産の放流用天然種苗の資源変動、天然遡上量の変動が激しいため、河川漁業における資源確保や漁場保全を困難にしている。資源確保を図るためには、人工種苗の放流の他に、積極的な海産アユの資源培養が望まれるので、アユの遡上量、降下量を把握し、海産アユの回帰率の向上のための手法を検討したので報告する。
調査河川の概要 相模川は、富士山麓(山中湖)を水源とし、神奈川県のほぼ中央部を貫流した後、平塚市で相模湾に注ぐ県下第一の河川である。河川の全長は約113km、流域面積は約1794km2、県下では約55.6km、流域面積は約673km2に及ぶ。
相模川水系に生息する魚種は55種で、アユは出現頻度でオイカワ、ウグイ、ギンブナに次ぐ位置にある。増殖対策として相模川漁業協同組合連合会により、年間約300万尾が放流され、遊漁を主体として約400t漁獲されている。
 

調査方法

1 遡上量調査
 寒川取水堰魚道で現地調査或いはビデオ画像解析により調査を実施した。魚道最上流の隔壁全幅(幅10m)を調査人員で等分し、通過するアユを目視により10分間計数し、これを10分間隔で繰り返した。欠測日は現地計数及びビデオ映像からの遡上量を基礎に、4段階の遡上階級を作成し、水温・天候を参考に階級を振り分けて推定した。また、神奈川県企業庁管理局城山事務所寒川出張所(以下、寒川出張所という。)の魚道管理用ビデオで、最上流の隔壁の一部(幅1.5m)を原則として毎日10時〜17時まで撮影・録画して、再生画像から計数した。計数は10分間行い、これを10分間隔で繰り返した。魚道全幅、欠測時間も同じ割合で平均的に遡上すると仮定し、計数値×(魚道全幅(10m)/ 計 数 幅(1.5m))×(計測時間+欠測時間)/ 計測時間の式により推定した。
 水温と河川流量は寒川出張所の資料を用いた。
2 降下量調査 神川橋下流において、プランクトンネット(NGG38)2〜3個を河川幅に均等になるように設置し、1回当たり15分、2時間毎に採集した。ネット網口中央部に濾水計を取り付け、濾水量を求めた。採集物は、10%ホルマリン溶液で固定して持ち帰り、仔魚を取り出し計数した。採集は、17時〜23時に行ない、この他、日内変化を把握するため、12時間及び24時間調査を実施した。 降下量の算出は次の方法により行った。2〜3個のネットによる採集数の平均値から採集時刻における密度(尾/t)を求め、毎時の河川流量(t)を乗じて降下量を推定した。流量は寒川出張所の資料を用いた。24時間調査から1日内の降下量のうち、17時〜23時における降下量の割合を以下の式から求め、(N17+N18+・・・・N23)/(N0+N1+・・・・・N23)  この逆数を1日当たりの引き延ばし係数として用いた。採集の欠測時刻及び欠測日については、採集間の降下量が直線的に変化していると仮定し、欠測前後の密度の平均値に欠測時間、日数を乗じて求めた。

結 果
 今回の調査結果と過去の資料を合わせ、遡上量の年変化を図1に示した。遡上量は30千尾(1989年)〜10,638千尾(1984年)と変遷し年変動が大きかった。
海産アユ種苗採捕量(X)と遡上量(Y)の関係は “Ye^(1.17×106×X+11.18)  (r2=0.679と指数的で正の相関が見られた(図2)。また、1987年、1995年、1996年は採捕量が多かったが、遡上量が少なかった。これらの年は共通して、遡上期の河川流量(寒川取水堰の下流放流量)が少なかった。2-4月の平均河川流量を図3に示したが、10t/s以下の場合を特異な状況にあった年として除くと、 “Ye^(1.35×106×X+11.39)  (r2=0.942)と、更に高い相関が得られた。遡上量の日別変化は、大量遡上が数回確認され、変動が大きかったが、1993〜1995年は4月が最盛期と思われた。1996年は5月に大量遡上が確認され、遡上が遅れていた(図4)。  降下量の年変化は、515万〜10.8億尾と大きく変動した。
降下密度(17:00-23:00平均)は10月下旬〜11月上旬に高かった。(図5)。

 考 察
 海産アユの採捕量は、1966年〜1996年まで、10千尾〜7008千尾で推移している(表1)。採捕量は種苗需要量に左右されるため、一概に資源量の指標としては扱えないが、60千尾以下を凶漁、60千〜300千尾を通常、300千尾以上を豊漁と言えそうである。  相模川におけるアユ仔魚の降下量と翌年の採捕量には正の相関が見られ、石崎らの報告と一致した。また、降下量と翌年の遡上量についても、正の相関が見られた。石崎らは、それらが正比例しないことを報告し、遡上期の環境条件が遡上量に影響を与えており、河川流量がその一つあると考察している。  遡上量と採捕量には正の相関が見られ、石崎らの報告と一致した。2-4月の平均河川流量が10t/s以下と少ない場合を特異年として除くと、更に高い相関が得られ、遡上は、河川流量に影響を受けていることが考えられた。
 遡上期間中には数回大量遡上があり、日毎に変動するが、遡上盛期は4月上中旬であった。過去の調査では、4月下旬〜5月上旬が盛期であり、1ヶ月程時期が早くなっていた。
 仔魚降下密度は10月下旬〜11月上旬にピークが見られた。過去の調査では、11月中下旬〜12月で、降下、遡上ともに1ヶ月のずれが見られ、その要因を解明する必要がある。
総降下量は515万4〜4.61億尾であり、1995年は最も少なかった。
 降下密度には大きな差はなかったが、1995年は降下時期に河川流量が少なく、要因の一つと考えられた。取水により仔アユが迷入することが懸念されるが、河川流量と取水率(迷入率)の関係は、取水率(迷入率)=取水量/河川流量  となる。
 取水量を一定とすると、流量が少ない場合には100%に漸近して高くなり、降下に与える影響が大きくなるものと考えられる。 今回は、海産アユ資源の増大と回帰率の向上を図るため、各回遊段階の阻害要因を明らかにすることを目的として、調査、資料の検討を行った。降下量と採捕量、採捕量と遡上量が正比例することから、降下量の増大を図ることが、資源量と遡上量の増大に寄与と思われた。
 それには、産卵場の保全、造成を図るとともに、降下量に影響を及ぼしていると考えられる河川流量を維持する必要があるだろう。また、採捕量(資源量)、遡上量及び遡上期の河川流量の関係から、流量が遡上に影響を及ぼしていることが示唆されので、遡上時期の河川流量の維持が重要であると考えられた。

要 約

1 アユの遡上量、降下量を把握し、海産アユの回帰率の向上のための手法を検討した。
2 海産アユ種苗採捕量(X)と遡上量(Y)の関係は Ye(1.17×10^6×X+11.18)  (r2=0.679)で、遡上時期の2-4月の平均下流放流量が、10t/s以下の場合を特異年として除くと、     Ye(1.35×10^6×X+11.39)  (r2=0.942)と、更に高い相関が得られ、河川流量は遡上に影響を及ぼしていることが考えられた。
3 降下量と翌年の海産アユ種苗採捕量、遡上量には正の相関がみられた。
4 降下時期の河川流量が降下量に影響を与えていることが示唆された。
5 過去の調査と比較すると、降下、遡上の各回遊段階が1ヶ月早まっていた。コンテンツの本文を記述します。
採捕量と遡上量 下流放水量
遡上量の日別変化

(平成8年度海産アユ回帰率向上総合検討調査報告書)

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